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温暖化の影響でアラスカにある島が消える?

2010年12月22日 18:56
温暖化の影響でアラスカにある島が消える?

 地球温暖化を阻止しようという国際的な議論が進む中「いずれ地図から消える」と言われているアメリカの島をニューヨーク支局・土屋拓記者が取材した。

 私たちが向かったのは、アメリカ・アラスカ州にある縦5キロ、幅400メートルのシシュマレフ島。先住民を中心に600人ほどが住む小さな島だ。島を歩くと、家の前には、アザラシが無造作に並べられているのが目に付く。さらに、物干し台の代わりとなる丸太には黒いかたまりがぶら下がっている。男性に話を聞いてみると「アゴヒゲアザラシの肉です。背中の部分の肉をこうして干しながら凍らすのです」と、教えてくれた。肉は脂身も含めて余すところなく食べ、毛皮は工芸品を作るために使うという。アザラシは島の人々の生活の基盤となっている。

 島で生まれ育ったレイモンドさんに、食事の準備を見せてもらった。ビニール袋から取り出したのは、大きなアザラシ肉。塩とコショウといういたってシンプルな味付けをした後、オーブンで約2時間、焼く。「レアで食べるのが好きな人もいれば、しっかり焼いた方が好きな人もいますよ」と、レイモンドさんは話してくれた。外で干してあった、あの乾燥肉はアザラシの油に浸けて食べるそうだ。子供も「本当においしいよ」と話す。アザラシとハンバーガーのどちらが好きかを聞いてみると「アザラシ肉の方が好きだよ」と答える。私もアザラシ肉のステーキを食べてみた。ちょっと筋があるようだが、肉なのに口の中に海の香りが広がる感じだ。レイモンドさんは「店で買える食べ物よりも伝統的な食べ物の方が、栄養価が高いし腹持ちもいいから良いんですよ」と語る。

 しかし、こうしたシシュマレフの伝統的な生活が、今、地球温暖化の影響を受けているという。古くから伝わるアザラシ猟を仕事にする猟師たちは、最近、猟に出るたびに異変を感じるという。猟師は「海の動物が獲れにくくなっているんだ。海水が温かくなっているんだろうね」と話す。気候温暖化で生活が困難になっているのかと聞いてみると「そうだね、難しくなっているね」と、不安の様子だ。アザラシやセイウチ、トナカイなどの狩りが以前より難しくなり、初めて見る魚が釣れることもあるという。これは平均気温が例年よりも2度も高いのが原因の一つだそうだ。

 実は、私たちが滞在中の11月、島で雨が降った。すると、シシュマレフの人は「これは普段ないことです。まるで春みたいな天気ですよ。本当なら一面雪で真っ白のはずなんです」と説明してくれた。この時期の水たまりは見たことがないという。確かに過去のデータと比べると、今年は雨が多く気温が高い。雪ではなく雨が降るという異常気象だ。さらに、本来なら凍っているはずの海も凍っていない。このため押し寄せる嵐や波で、海岸が削り取られていた。この15年間で、40メートルもの海岸がなくなっている。

 島で唯一の学校の授業をのぞくと子供達がアザラシの皮で工芸品を作っていた。いずれ島はなくなるかもしれない、そんな不安を抱えながらも、島の人たちは伝統文化を残したいと願っている。レイモンドさんは、こう心情を吐露した。「島は海に依存しています。その海が本来の姿でなくなったら、我々の文化や先代からの遺産を失ってしまうでしょう。そう考えるのは恐ろしいことですよ」

 地球温暖化への具体的な対策をいまだ打ち出せていない国際社会。シシュマレフの海岸線は、きょうも少しずつ削られている。